——「前回と同じ」イベントから、一歩踏み出すために。
2025年、福島県南会津地方で開催された「南会ドローン幻夜祭」。
数百機クラスのドローンショーを“主役”に据えたこのイベントは、県としても前例のない挑戦でした。
企画をリードしたのは、福島県南会津地方振興局の渡部洋一郎さん。
ドローン人材育成事業「南会ドローン中学校」と連動したこのプロジェクトは、なぜ生まれ、どのような成果を残したのか。そして、行政がドローンショーに挑戦する意味とは。
「ドローン人材育成」と「地域の理解」——導入の出発点
—— まずは、今回のイベントでドローンショーを導入された背景から教えてください。
渡部様:
南会津地方では「南会ドローン中学校」という、ドローン人材育成の取り組みを令和7年度から本格的に始めています。民間のドローンスクールがない南会津地方において、県がドローンスクールを運営し、人材を育成しながらドローンの活用を進めていくものです。
ただ、人材育成やドローン活用を進めるうえで、どうしても避けて通れないのが“地域の理解”なんです。
ドローンって、ニュースや実証実験の話題としては耳にするものの、私たち生活者が「自分ごと」として捉えるのはまだ難しい。そこで、まずは「楽しむところ」から始める必要があると感じました。
事業を企画する過程で、色々なドローン関連の映像を見ていたときに、ドローンショーの動画に出会ったんです。「これはイベントの目玉になり得る」と直感しました。
そこで「ドローンショーを主役にしたドローンイベントをやろう」と考えたのが、今回の企画のスタートでした。
「前回と同じ」から抜け出したい——地域イベントの課題感


—— 花火大会や音楽イベントなど、既存の催しと比べて、どんな課題を感じていたのでしょうか。
渡部様:
どこの地域もそうだと思うのですが、イベントってどうしても「前回とほとんど同じ」になりがちなんです。
人口減少が進むなかで、地域が活力を維持していくには、新しいことにチャレンジし続けないといけない。伝統や文化を大切にしながらも、地域間競争という現実のなかでは、現状維持が「後退」とイコールになってしまう恐れもあろうかと思います。でもみんな忙しくて、どうしても「例年通り」に流れてしまう。
だからこそ、福島県が率先して数百機クラスの大型ドローンショーに挑戦することは、地域にとっても、私たち行政にとっても「新しい一歩」になると考えました。
「福島県内で初めての大型ドローンショーをやる」というのは、当時、私にとってもひとつのチャレンジだったんです。
White Crowとの出会いと、不安に寄り添う伴走
—— ドローンショーの実施にあたって、どのように事業者を探していかれたのでしょうか。
渡部様:
正直なところ、最初は何も分からない状態でした。
インターネットで「ドローンショー会社」と検索して、各社のホームページから問い合わせをしていくところからのスタートでした。
そのなかで、White Crowさんのサイトに載っていた「全国のドローンショー会社一覧」のコラムが、とても役に立ちました。「あ、こういうプレイヤーがいるんだ」と俯瞰できたのは助かりましたね。
一方で、こちらには予算の制約もありましたし、「こんな規模感で相談して、相手にしてもらえるのだろうか」という不安も大きかったです。しかも今回は企画プロポーザル方式。契約をお約束できない段階で相談を重ねることになるので、余計に申し訳なさもありました。
その状況で、堀内さんと本山さんが、こちらの不安にとても共感してくださって。
「それは心配ですよね」と言葉にしてくれたうえで、親身になって説明や提案を重ねていただいたのが、本当に心強かったです。
—— 最終的に、企画プロポーザルでWhite Crowを採択された決め手は何だったのでしょうか。
渡部様:
各社のご提案を複数名の審査員が採点し、White Crowさんが一番高得点だったというのが理由です。
私個人としては、「南会津地方のことをよく勉強してくれているな」ということ。そして、「福島でドローンショーをやりたい」という熱意を感じました。
契約の後の話になりますが、こちらから「こんな演出はできますか?」「この条件でも可能でしょうか?」と何度も投げかけた際、その一つひとつに対して真剣に向き合ってくれたことが、信頼につながりました。
そして何より、「一緒にドローンショーをつくっている」という感覚が楽しかったんです。
事務職の公務員である私は、許認可や計画策定といった仕事が多いのですが、このプロジェクトでは、まるで自分がドローンショー会社の一員になったかのような日々で、「人に感動を届ける」という夢のある仕事に関われたことは、自分にとってもかけがえのない経験でした。
安全運営と「南会ドローン中学校」の連携
—— 実施当日の運営体制についても教えてください。
渡部様:
まず何より重視したのは、飛行エリアへの立ち入り禁止の徹底です。
今回は「南会ドローン中学校」の受講生にもスタッフとして入ってもらい、安全管理や導線の確認など、現場で一緒に学んでもらいました。
会場の立ち入り禁止エリアは、ホームセンターで購入したテープでしっかり区切り、プログラムにも立ち入り禁止エリアのマップを掲載して、来場者の皆さんに繰り返しアナウンスしました。
White Crowさんからも「ここは譲れない」という安全面のラインを明確に示していただいたので、主催者としても安心して任せることができましたね。
こちらが何か大胆な案を出しても、「それは安全上難しいです」とはっきり言ってくれたのは、むしろ信頼につながりました。
来場者数は「数えられなかった」——それでも伝わった感動
—— 来場者数やデータ面の把握はどのようにされましたか?
渡部様:
正直に言うと、「正確には把握できなかった」というのが答えです。
初開催となる入場無料の屋外イベントで、予算にも制約があるなか、カウント用の仕組みまでは手が回りませんでした。
「ドローンが上空から来場者数を数えてくれたらいいのに」と本気で思ったくらいです(笑)。
ただ、データが取れなかったからといって、成果がなかったとは全く思っていません。
今回のドローンショーを通じて、来場者数というデータよりも大切な「来場者の感動」という価値を実感しました。
—— 実際の反響はいかがでしたか?
渡部様:
来場者からは、「感動した」「迫力があって驚いた」「また来年もやってほしい」といった声を多くいただきました。
私自身も、企画段階から世界中のドローンショー動画をたくさん見て勉強してきましたが、生で見る迫力はやはり桁違いでしたね。
SNS上でも、たくさんの写真や動画が投稿されました。
White Crowさんが公開してくれた公式動画は、公開から1か月で1,400回以上再生され、「感動した」といったコメントも寄せられています。
また、「ゼロから打ち師始めます。」さんのメンバーが投稿してくれたショート動画は、2か月で2万回近く再生されているものもありました。
来場者数だけでは測れない、南会津地方や下郷町のPR効果がしっかり生まれていると感じています。
想定外だった「スケール感」と、地上演出とのバランス
—— 実施してみて、想定外だったことや気づきはありましたか?
渡部様:
想定外だったのは、ドローンショーの“スケールの大きさ”です。
ドローンショー全体を写真に収めようとすると、観客がかなり後ろまで下がらないといけない。そうすると、地上で行っていたサイリウムダンスが、思った以上に小さく映ってしまうんです。
今回は「ドローンショー × サイリウムダンス(ヲタ芸)」というコラボレーションが大きなポイントでしたが、両方を一枚の画角に収めるのが難しかった。
次に同じようなコラボをするなら、地上側の演出をもっと観客に近づけるなど、レイアウトを工夫する必要があると学びました。
ただ一方で、「あれだけ巨大なアニメーションが、あの距離で見られた」というのは、今回ならではの良さでもあったと思います。
近さの迫力と、演出のバランス。ここは今後も考え続けたいポイントですね。


「ドローン×音楽」のシンクロと、これからの技術進化
—— ドローンショーと音楽のシンクロについても、お話されていましたね。
渡部様:
個人的には、ドローンの動きと音楽(音)のシンクロは非常に重要である一方で、まだ改善の余地があると感じています。
これはWhite Crowさんの問題というより、ソフトウェアや機材側の課題に近い部分だと思っていて、今後の技術進化でかなり変わるのではないかと期待しています。
技術的には、もっと精緻にシンクロさせることも可能なのだろうと感じていますし、あとは「そこまで投資するか」という判断の問題。
いずれにしても、数年後には、今とはまた違うレベルの“音と光の一体感”が生まれているのではないかと思います。
「生産者の顔が見える野菜」のように——White Crowへの印象
—— プロジェクトを通じてのWhite Crowの印象や、今後期待することがあれば教えてください。
渡部様:
White Crowさんは、メンバーを本当に大切にしている会社だなと感じました。
誰がどんな役割を担っているのかが見えやすくて、それぞれの個性も伝わってくる。
それはまるで「生産者の顔が見える野菜」のように、「私たちがつくったドローンショーです」と言える、唯一無二の価値につながっていると思います。
だからこそ、イベント内でも本山さんへのインタビュー企画を入れさせていただきました。
“作り手の想い”を来場者の皆さんにも知ってほしかったんです。
期待という意味では……あまり「こうしてほしい」はなくて(笑)、むしろ今のままのWhite Crowでいてくれたら嬉しいです。
安全性に妥協せず、メンバーを大切にしながら、一つひとつの現場に向き合っていく。その姿勢が続いていけば、きっと業界全体にも良い影響が広がっていくと感じています。
行政がドローンショーに挑戦する意味とは
—— 最後に、同様のイベントを検討している自治体や主催者の方々にメッセージをお願いします。
渡部様:
ドローンショーをまだやったことのない主催者、特に自治体職員の皆さんには、ぜひ一度検討してみてほしいです。
行政がドローンショーを主催するというのは、色々とハードルが高い面があるかもしれません。
でも、私はこれを「ドローンの社会実装」のひとつだと捉えています。
全国で、物流や鳥獣対策など、ドローンの実証実験がたくさん行われていますよね。
行政としてはつい、「住民生活の利便性向上」や「被害の防止」といった機能的な部分に目が向きがちです。
けれど、「地域の皆さんに初めての感動を提供する」というのも、同じくらい大きな価値だと思うんです。
ドローンショーに挑戦することで、きっと担当者自身にとっても、一生記憶に残るような経験になります。
私自身がそうでしたから。
機体数を調整したり、体育館でのインドアドローンショーを組み合わせたりすれば、地域ごとの規模に合わせた活用も十分可能です。
成人のつどいや観光PRなど、ドローンショーの可能性は本当に無限大です。
人口減少や高齢化により地域イベントの維持が難しくなっている中、私たち行政が地域で暮らす皆さんの「感動」の価値を再認識し、勇気をもって新しいイベントに挑戦していく、あるいは、既存のイベントをドローンショーで応援する。
新しいことに挑戦するのは、確かに「大変」かもしれません。しかし、「大変」だからこそ地域が「大」きく「変」わるきっかけが生まれるのだと思います。でも実際は勇気が要りますよね。。。
今回の南会津での取り組みが、そんな“勇気ある最初の一歩”を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。
White Crow担当者コメント
——「行政と一緒に、“地域の挑戦”をつくる仕事」
今回のプロジェクトで一番印象に残っているのは、渡部さんの「どうせやるなら、本当にいいものをやろう」という姿勢でした。
予算の制約や、初めての取り組みであることによる不安があるなかでも、「福島県内で初めての大型ドローンショーに挑戦する」というゴールから決して目をそらさず、何度も対話を重ねながら前に進んでいく。その熱量に、私たちも何度も背中を押されました。
打合せのたびに、「ここはもっとお客さんの感情が揺れるようにできないか」「地元の方が自分ごととして誇れる演出にしたい」と、演出の細かい部分まで一緒に悩んでくださったのがとても印象的です。
行政の担当者さんが、単なる“発注者”ではなく、「一緒にショーをつくる仲間」になってくださると、演出の解像度も上がり、当日の空気感もまったく違ったものになります。
さらに忘れられないのが、「南会ドローン中学校」の受講生のみなさんの姿です。
当日の安全運営スタッフとして参加いただいたのですが、夜遅くなり「もう上がって大丈夫だよ」と声をかけた場面で、ある受講生が「最後までやり切りたいです」と迷いなく答えてくれました。その一言に、こちらが思っていた以上の責任感と前向きさがにじんでいて、思わずハッとさせられたのを覚えています。
・地域の若い世代が、ドローンショーの“裏側”を体感すること
・そこで得た経験が、次のチャレンジやキャリアの種になること
これは、単なる一夜のイベントを超えた価値だと思います。
私たちは、「空を舞台に、物語を描く」というテーマのもと、ただ光を飛ばすのではなく、地域や企業の“物語”を一緒に紡いでいきたいと考えています。
今回の南会津での挑戦は、「行政と民間が対話しながら、地域の新しい当たり前をつくっていくモデルケース」になり得るプロジェクトでした。
渡部さんをはじめ、福島県南会津地方振興局のみなさまが見せてくださった一歩が、
「うちの地域でも、ドローンショーに挑戦してみよう」
という全国の自治体や主催者さんの勇気につながれば、これ以上嬉しいことはありません。
今後もWhite Crowは、安全性とクオリティにこだわりながら、
「地域の初めての感動」を、一つひとつ丁寧にご一緒していきたいと思います
※参考リンク
本インタビューで触れられている事業・イベントの詳細はこちらをご参照ください。
・南会ドローン中学校(福島県 南会津地方振興局)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01250a/ndj.html・南会ドローン幻夜祭(福島県 南会津地方振興局)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01250a/ndf.html・公式イベント動画(YouTube)

